『寒山拾得図』について。
今回展示中の寒山拾得図についてご質問をいただいたり、感想いただく機会がいつもより多かったので少し書かせて頂こうと思います。何を題材にしているのかと問われる事があるのですが、ちょうど一年前に発生したISILによる日本人拘束事件やその情勢を題材にしたものです。前にも書きました通り、寒山拾得という題材はある種のヒッピーとして生きる二人の怪僧を通して、世の中の持っている規範意識の外側から寛容さや多様性の必要性を説いているものだと私は考えています。詩を詠み、悠々自適に暮らす二人の僧侶の奔放さは、観る者に世俗的な規範から外れている存在に対する憧れなどを抱かせると同時に、自分は何かを理解している、分かっているというおごりをあざ笑ってくれる存在として描かれてきたように思います。
ちょうど一年前、個展の準備に急がしく、それ以外の情報について目を向けるようなことはありませんでしたが、個展が終わったときに、ふと後から聞こえて来る情報に目を向けると浦島太朗にでもなったかのように自分の立っている場所の不安定さに目を向けざるをえなくなりました。
世の中とコミットしたいと思いつつも、制作中は画面から目を離すことはありませんでした。振り返って自分が何か記しておくことができなかったかと思い、今回の制作に行き当たりました。葦の髄から天井を覗くような心境になりますが、グローバル化していく世の中で情報が溢れれば溢れるほど、なぜかドメスティックな方向へと舵をきろうとする情勢や現象について、疑問に思いつつも何となく分かってしまう、と感じる自分もいたりします。狭まっていく見識の中でそういった世界の寛容さや隙間のようなものが失われていってしまうことへの危惧を感じることも多いように感じます。同時に多くの情報の中で目を閉じようと思えば、閉じる事のできてしまう世の中でもある訳で、そういったアンビバレンスな状況をどう生きていくのか、二人の僧の存在を通じて考えられるような気もしています。
一年前の2月の出来事を2016年の2月に同時に展示出来る機会を模索しおりました。同時に展示する事はできませんでしたが、なんとか同じ月に展示することが出来ました。
左『蛮勇引力・SOKKI・寒山拾得図』より拾得図 2015年 180x150cm 紙本彩色
右『蛮勇引力・SOKKI・寒山拾得図』より寒山図 2016年 180x150cm 紙本彩色
左図、拾得はアメリカの国民的画家ノーマンロックウェルの作品から、右図、寒山は山本芳翠の『浦島図』から浦島太郎。蛮勇引力は当時の官房長官の発言から。
左図、拾得図は現在FACE2016東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にて3月中も展示しております。
日時■2016年2月19日(金)〜3月27日(日)10:00〜18:00(入館は17:30まで)※月曜日休館(但し、3月21日は閉館)